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NeurotechJP banner 10年以上前から市場を開拓。BCIのパイオニア企業 "NeuroSky" | Stanley Yang
インタビュー
2021/9/22
10年以上前から市場を開拓。BCIのパイオニア企業 "NeuroSky" | Stanley Yang

 

近年注目を集めるコンシューマー向けの Brain Computer Interface だが、いつから我々一般消費者の手元に BCI はあったのだろうか。

 

30 年以上も前から BCI は研究されているが、そのターニングポイントは、20 年以上も前に遡る。1990 年中旬に侵襲型の BCI の研究が加速した。2001 年にBrown 大学の研究チームらで創業されたCyberkineticsは、創業から 2 年後世界初のコンシューマー向け BCI "NeuroPort"を提供し、神経システムの動きをモニタリングすることが可能となった。

初めての BCI が市場に出され、まだ BCI が日の目も浴びていない 2000 年代、コンシューマー向け非侵襲型 BCI を提供しエンターテイメントと組み合わせることでマーケットを開拓してきたパイオニア企業がいる。その企業こそ、今回インタビューさせて頂いたStanley Yang率いるNeuroSkyだ。

 

今回は、10 年以上も前から Neurotech 市場を開拓してきた NeuroSky の CEO Stanley Yang に、どのようにマーケットを開拓してきたのか、そして競争が激しくなってくる近年パイオニア企業としてどのような戦略をとっていくのか、その歴史と今後について、インタビューをさせて頂いた。

 

NeuroSky とは

Neurosky logo

UC Berkeley で電気工学を学んだ Stanley は、ガジェットを作ることが得意であり、1997 年にはマイクロプロセッサなどを含むチップを提供するTriscendを創業、2004 年に同社はXilinxによって買収された。その後、同年シリコンバレーにて、JongJin LimKooHyoung Leeらが創業した NeuroSky にジョインする。

 

NeuroSky は、2009 年に Mattel社と共同して脳波でボールをコントロールするMindflexという玩具をリリース、同年にUncle Milton社と共同してスターウォーズのフォースを体験できるStar Wars Science Force Trainer を提供するなど、創業初期はOEMとして活躍した。それらの知見や経験をもとに、その後同社は、Mindset という BCI を提供開始し、脳波でオブジェクトを動かせるゲームNeuroboyをリリースした。

現在、同社は、コンシューマー向けに$100 から購入できる脳波デバイスを提供するだけでなく、開発者向けのSDK キットも無料提供する。また、そのコアテクノロジーとなっているチップ基盤を、BCI を提供する多くの企業に販売する事業も行う。

 

さらに同社は、米国限らず、ヨーロッパ・アジアなどへと事業展開の足を広げ、合計資金調達額は 30 億円を超える。

Neurosky device 画像: Neurosky デバイス "MindWave"

 

市場開拓成功の背景「まずは市場のトレーニングから。」

2000 年代、初めて BCI が人々にとって馴染みにあるものになったのは NeuroSky が提供したアプリケーションとデバイスがきっかけだと言っても過言ではない。

"脳波"という言葉をほとんどの人が知らない中、BCI の概念を人々に植え付けるのは多くの苦労を必要としたと、Stanley は語る。

当時、開発した脳波デバイスを使ってくれと人々に訪ねると、誰もその中身を知りませんでした。 既に医療業界では脳波が測定されているのにも関わらず、一般消費者は脳波を測定するプロダクトをどのように使うべきか、そしてなぜ使うべきなのかを、全く分かっていませんでした。

 

一体どのように、より多くの人々に"脳波"の概念を植え付け、マーケットを開拓していったのだろうか?

 

Neurosky Starwars trainer Neurosky Star Wars Force Trainer

その突破口として、 スターウォーズの「フォース」という人々にとって馴染みのあるおもちゃを提供することによって"市場をトレーニング" していったという。

当時、明確なアプリケーションなしで、脳波測定プロダクトを使ってもらえるよう人々を納得するのは難しかったです。 そこで、私たちは、誰もが既に知っている、"スターウォーズ"の"フォース"を題材にアプリケーションを提供することにしました。

私は脳波という表現の代わりに、フォースという表現を多く使うようにしました。 そうすると、フォースは空想のものだと人々は知っているので、私たちのプロダクトに興味を持ち始めました。人々はフォースを実現した技術を調べ始め、最終的には、私たちの脳波技術を見つけました。 これを、私は市場のトレーニングと呼んでいます。 ... このように、市場をトレーニングするのに多くの時間と努力を費やしました。しかし、これは人々に私たちのプロダクトを理解し受け入れてもらうために必要不可欠であり、多くの企業がこのトレーニングに失敗しています。 ... 市場のトレーニングをしながらプロダクトを作っていくのに私たちは多くの努力を必要としましたが、そのおかげで、私たちの技術をこの 10~15 年間一般消費者に提供することに成功しています。

 

これらの "市場のトレーニング"を初めのステップにすることが、成功の鍵だと Stanley は語る。

これらの市場のトレーニングをした"後"で、この技術を使った多くのことが可能となり、その際に収入をあげる必要があります。 ... 例えば、私は初代 iPhone を持っていますが、今では何十億ものアプリがある一方、初めはたった 4 つのアプリしか入っていませんでした。当時、彼らは「これがアプリである」という概念をユーザーに理解させるため、市場をトレーニングする必要がありました。 ... 大企業でさえ、新しいプロダクトを提供するのに失敗することがあります。それは、技術が足りない、アイデアがよくない、アプリが微妙だとかいう理由ではなく、市場のトレーニングに失敗しているからだとこの目を通して学んできました。 もし、あなたが誰も見たことのないアイデアやプロダクトを持っているのであれば、ますはそれを受け入れてもらうため、市場のトレーニングをする必要があります。

 

教育領域でのデバイス提供と、チップ基盤の提供。そのユースケースとは。

市場をトレーニングしていくことに成功した NeuroSky であるが、今後さらに多くの人々に対して BCI を身近なものにするためには、どうするべきなのか?

 

目的を持った良いアプリケーションを提供することだと Stanley は語る。

NeuroSky が現在力を入れている領域として、1 エンドユーザー向けではなく、団体や企業向け教育領域産業領域においてデバイスを提供しているそうだ。

現在、私たちのプロダクトは、世界中の学校やジムなどの実用的な場面で、教育のためのヘッドセットとして使われています。 また世界中の建設会社でも私たちの脳波技術は使われており、従業員のヘルメットに私たちの技術を備え付けることで彼らのコンディションが悪いかどうかをモニタリングすることができます。そうすることで、工事中に発生しうる重大な怪我の事故を防ぐことが可能となります。

 

NeuroSky が提供する BCI は、1 つの電極しか持たず、非侵襲型 BCI スタートアップ 5 選で紹介したような他の BCI と比べたら、その精度やユースケースの範囲は限られる。

しかしながら NeuroSky は独自のデバイス提供に限らず、これまでの経験や技術をもとに開発した独自の脳波用のチップをも多くの企業に提供する。

チップという基盤そのものを BCI 開発に取り組む企業に提供することで競合という関係ではなくむしろコラボレートという形を実現していると、Stanley は語る。

私たちは顧客にただヘッドセットを売っているわけではありません。独自のチップも開発し、多くの企業とコラボレートしています。 彼らは私たちのチップを使い、複数のチャンネルがあるデバイスを製造し販売したりしており、彼らと競合することはありません。私たちのチップを使った技術やプロダクトは多く世の中にあります。 なので、あなたが挙げたような(BCI の)企業は競合ではなく、実際は、私たちの顧客なのです。

NeuroSky Chip 画像: NeuroSky 脳波チップ

 

プラットフォーム企業そして、脳波に限らないバイオセンサー企業へと。

チップ基盤を開発し提供することにより、Neurotech 領域でユニークなポジションを取る NeuroSky であるが、今後の展開は一体どうなるのだろうか。

 

まずはプラットフォーム企業となることを継続していくという。

全てのアプリは App Store で管理され、Apple 自体は携帯を作ることに集中しているように、私たちはハードウェアという、脳波のプラットフォームの基盤となるものを作っています。 私たちのビジネスパートナーや顧客は私たちのプラットフォーム上に、アプリを提供しています。

 

Neurosky watch 画像: Neurosky スマートウォッチ

さらに、長年培った AI やハードウェアの技術を、脳波限らずバイオセンサーチップにも適応していくと、Stanley は語る。その一例として、COVID-19 の症状を検知するスマートウォッチを政府と協力して開発したという。

私たちは、脳波センサーだけでなく、そのベースとなるバイオセンサーも作っています。例えば、そのバイオセンサーを使ってスマートウォッチを作りました。これは、あなたのコンディションを検知し、COVID-19 を持っている可能性を計算できます。 今では、時計だけでなく、他の体の部分からバイオセンサーをとっており、脳波で経験した基礎技術を他の領域に応用しています。

 

さいごに

今回は、長年に渡り、Neurotech 市場を開拓してきた NeuroSky の創業者 Stanley Yang に、その成功の秘話や今後の展開などをインタビューさせて頂いた。

NeuroSky が初期に BCI を提供する際人々の認知に多くの苦労をしたように、実現不可能だと思われていた技術を人々に提供するには市場のトレーニングが必要不可欠である。これらの教訓は、Neurotech 限らず、数多くの分野にて最新の技術を社会実装する際、必要になってくるのかもしれない。

ライター

Hayato Waki

インタビュアー

Hayato Waki