よく眠れない。
中々集中できない。
心配性が治らない。
情報社会の今、このような心の状態に関する悩みを持つ人は多いのではないのだろうか。脳波を用いてそれらの問題を解決する方法としてニューロフィードバックという技術がある。
ニューロフィードバックとは、脳波を計測するデバイスを用いて脳活動をリアルタイムで可視化し、自らの脳活動を訓練によってコントロールすることができる技術だ。
Neurofeedback 概念図
今回は、ニューロフィードバック技術を用いて集中力を高めたり睡眠の質を上げたりする非侵襲型の脳波デバイス"Neuphony"を提供する、ドイツのスタートアップ"PankhTech"の創業者Ria Rustagiに、Neuphony の魅力やその技術、今後のビジョンについて、インタビューをさせていただいた。
姉の喪失で、脳に興味を持つ
Neuphony は、ハードウェアエンジニアである Ria と、Ria の婚約者でもありソフトウェアエンジニアでもあるBhavyaとで、2019 年ドイツにて創業された。
「脳の可能性を解き放つ」という会社のビジョンは、2016 年に Ria の姉に起きた深刻な脳の病気がきっかけだったという。6 ヶ月の闘病生活の末、不幸にも姉を失ってしまった Ria は、精神的なトラウマを抱えつつも、その病気や脳そのものの仕組みについて解明しようと勉強をした。その後 Neurotech のスタートアップをやるという決断に至ったのには、ベッドで寝たきりの人が考えていることがその家族に伝わってほしいと思ったのと同時に、トラウマなどの不安定な精神状態を治すためには Neurotech が重要だと思ったからだという。
「姉の闘病・喪失で私は精神的トラウマを経験しました。私はもともとは情熱的な性格であったので、トラウマを持つ弱い自分を受け入れるのに抵抗がありました。 だからこそ、トラウマを直すのに、カウンセリング療法でなどは時間がかかると思いました。心の余裕がない人など、自分と同じ状況を持つ人は世界中にいると思い、個人で解決できる Neurotech という方法に興味を持ちました。」
正確なニューロフィードバック技術を持つ Neuphony
Neuphony アプリケーション
Neuphony は、対応のアプリケーションと一緒に使うことで、
- 睡眠の質の向上
- 集中力の向上
- ストレスの減少
など、精神の健康を良くする多くの効果が期待できる。
その使い方は至って簡単だ。
デバイスと専用のアプリを入手した後、通常時の脳波を測定し脳の状態(気分)を測る。その後、アプリが提供する瞑想を開始する。たとえば「集中力が足りていない」などといった、その時の気分に沿った最適な瞑想が行われる。途中、脳の活動状態に沿って、BGM の音量を使った聴覚刺激フィードバックが行われ、深い瞑想へと誘導される。終了後、脳波の状態の変化を確認できるという流れだ。
そのニューロフィードバックという仕組みの鍵を握るのは、 「どの種類の脳波(ex.アルファ波)を持っているか」「脳のどの部分を計測しているか」「いつ計測しているか」 の 3 つの要素だと Ria はいう。
「例えば、朝方に計測された前頭葉のベータ波は安定していますが、夜寝ようとする時のベータ波は不安定です。私の場合、常に色んなことを考えているので前頭葉のベータ波が不安定です。なので、寝る前にニューロフィードバックでこのベータ波を抑えることで、良い眠りをつくことができます。 このように、"いつ”、"脳のどの部分”を対象に"どの種類の脳波"を計測しているかが、良いニューロフィードバックの要素となります。」
*ベータ波: 集中している時に発生する脳波の一つ
*アルファ波: リラックス時に発生する脳波の一つ
Neurophony のソフトウェアには、これら細かい条件によって作られた脳波分析のシステムが組み込まれているため、リアルタイムで正確なニューロフィードバックを行うことができているという。
また、ニューロフィードバックのための瞑想は 4 つのカテゴリーに分けられるという。集中するための瞑想なのか、リラックスするための瞑想なのか、など瞑想の用途ならびに、それに対応する場所の脳波を見ることで、「集中力向上」「ストレス減少」などの複数の異なる目的のニューロフィードバックを可能にしているという。
ハードウェアとソフトウェアでの強み
Neuphony
Neuphony の強みは、様々なデータが取れるよう正しい位置に必要最低限のセンサーを置いていることから、一般人だけでなく研究者でも使えるようにハードウェアデバイスの設計をしているところだと、Ria は語る。
「私たちは、一般人向けのデバイスと研究者向けのデバイスに大きなギャップがあると感じています。研究者向けのデバイスはセンサーが沢山あり良いものであるが高い。 一方、一般人向けのデバイスは安いが正しい位置にセンサーがついてないことが多いです。このギャップを埋めるために、私たちはセンサーの位置を慎重に選び、前頭葉・頭頂葉・側頭葉 3 つをカバーする唯一無二のデバイスを作りました。」
集中や感情を司る前頭葉、聴覚や記憶を司る側頭葉、体性感覚を司る頭頂葉、これら違う働きを持つ 3 つのデータ情報を巧みに分析することで、Neuphony はニューロフィードバックを用いて多くのユースケースに正確に対応できるのであろう。
加えて、各ユーザーの頭の形にフィットするよう、デバイスを変形できるのも、強みの一つだという。
他のデバイスでは一つのセンサーが壊れてしまったら、それだけを取り換えることは不可能であるが、Neuphony は自分でセンサーを取り替えることが可能である。
また、デバイスから取得できる多種多様なデータセットを処理するには、複雑なソフトウェア技術が必要であるが、機械学習アルゴリズムの部分でも強みを持つと Ria は語る。
「私たちは、高い質の脳波分析アルゴリズムを持っています。あなたの脳波状態に合わせて、システムが適切な瞑想をレコメンドします。なので、私とあなたが"眠る"という同じ行為を取ったとしても、各々の脳波に基づき、違う瞑想が提案されるでしょう。」
日常生活で一番扱いやすい精神安定法がニューロフィードバック
精神を安定させるために、果たしてそこまでしてニューロフィードバックを使う必要があるのか?
ニューロフィードバックは、価格的にも気分的にもハードルが低いので、日常生活で使うには最高な技術である最高な技術であると Ria は答える。
「精神の安定を求めるのに、多くの方法があります。その一つに、MRI で脳を測定するなどがありますが、高すぎます。また、心理療法を受けにいくにしても、気が引けてしまうことがあります。 一方、ニューロフィードバックは、手に取りやすく、お手頃な値段なので、特に治療目的ではなく日常で出来る改善という目的においては、最高な技術であると思います。」
今後 - Neurotech をより一般的なものへ
ニューロフィードバックで数多くの人を助ける Neuphony であるが、Ria が描く Neuphony、そして Neurotech の今後について伺った。
「まず第一に、人々はこの技術で何ができるのかまだよくわかっていないので、この技術について知り、教育を受けるべきです。 そして、日常生活でスマートウォッチを使うように、睡眠や歩数を記録するように、この技術を使うべきです。ニューロフィードバックは、まずそのような技術にしたいと考えています。
次に、ニューロフィードバックを使って何かを作れる人たちが集まったプラットフォームを作りたいです。この分野で活躍している人たちは、世界的に見ても非常に少ないと感じています。 脳は私たちの全てなので、この技術を発展させ人々の生活の質を向上させるにも、国境を超えた繋がりを作りたいです。」
と、Ria は答える。
現在、Neuphony は、そのようなプラットフォームを作るべく、Developer 用 SDK を開発中だという。
また、Neuphony の今後のデバイスの形については、視覚情報に関連するとされる後頭葉などに対してより多くのセンサーを付け加え、更に違ったデータをユーザーに提供したいという。
脳の仕組みに関して 60 年以上も研究をしている脳科学者チームとタッグを組み、追加するセンサーの位置を正確に特定しているそうだ。
さいごに
今回は、ニューロフィードバックを用いて様々なアプリケーションを提供する、Neuphony の Ria にインタビューをさせて頂いた。
手軽さと機能性を兼ね備えたニューロフィードバックは、近いうちに多くの人々に対して提供され、Neurotech をよりポピュラーなものにしてくれるのかもしれない。