「iPhone に代わる次のモノは何だろうか?」
テクノロジーが好きな人であれば一度は考えたことがあるだろう。
15 年前にはなかったが、現在では誰しもが持っている iPhone。モバイルアプリという新しい市場を発掘し、人々の体験を劇的に変えた画期的なデバイスである。これからの未来、脳とコンピュータをつなげる BCI という技術を用いて我々の体験の可能性を更に解き放とうとビジョンを掲げるのが、ニューヨークをベースに活躍するスタートアップNeurosityだ。
今回は、MacBook Air 並みのハイスペックな CPU を搭載する脳波デバイス「CROWN」を 3 月にローンチし勢いにのる、Neurosity の創業者Alex Castillo に、CROWN の魅力や BCI で我々の生活を変えていくビジョンについて、インタビューをさせていただいた。
Neurosity とは?
Neurosity は、CEO のAJ Kellerと CTO の Alex Castillo で 2018 年に共同創業され、現在のラウンドはシードステージだ。
そのチームは、ハードウェア・ソフトウェア広い範囲にわたり優れたチームワークを持つ。ハードウェア全般を担う AJ は、大学でコンピューターエンジニアリングを学んだ後、ボーイング社にて飛行機やロボットのエンジニアリングに携わってきた。ハードウェアの専門的なバックグラウンドを持つ AJ とは反対に、今回インタビューさせていただいた Alex は、Grubhub や Netflix などで 15 年間ソフトウェアエンジニアとして活躍してきた。その膨大な知識と経験をもとに、Neurosity ではソフトウェア全般を担う。
また、加えて、UC Berckey のニューロサイエンティストやマーケティングに優れた人材など、小さいながらも多種多様なチームで活動する。
ソフトウェア業界で長期に渡り活躍している Alex だったが、Neurotech のインスピレーションを得たのはおよそ 5 年前くらいであり、家族や友人の精神の病気がそのきっかけだったという。
「人々がどのようにアプリケーションやコンピュータと接するべきなのか、ずっと興味を持っていました。 それとは別に、私の家族や友達は、てんかん症などの病気に苦しんでいて、それがきっかけで、脳について興味を持ち始めました。 なので、ブレインコンピュータインターフェース(BCI)の技術を試す機会があった時には、一度参加してみたいと思っていました。」
デザイン性と処理能力に強み 「CROWN」
今回、3 月に発表された非侵襲型のデバイス「CROWN」は、8 個のセンサーで脳波を検知し、専用アプリ「Neurosity Shift app」を通じて、集中度、リラックス度などを測定することができる。
また、アプリを Spotify アカウントと連携すれば、脳の活動に基づいて生産性の高まる曲を発見したり、集中度に応じて通知機能を止めたりすることも可能だ。これらの機能が、その瞬間に完全に没頭する「 フロー状態 」へと導いてくれる。
CROWN の強みは、使用目的から逆算されたセンサーの位置の正確性と、シンプルさを維持するそのデザイン性であると、Alex はいう。
「EEG(脳波計)は何十年にわたって研究されてきているのにも関わらず、どうして皆が装着していないのか疑問に思いませんか。 そこで、私たちは、誰よりも先にデバイスをよりスマートにしました。 ... ただ、後先考えずデバイスを作ったわけではありません。まず初めに、私たちは、 "どのように、人々に価値を提供するか?" "どのように、人々にデバイスを使ってもらうか?" を考え始めました。 自分たちが創造するプロダクトやアイデアを持った上で、マネキンを使って頭のセンサーの位置を考慮し、ゼロから設計をし始めました。」
CROWN のように、前頭葉・後頭葉・頭頂葉・側頭葉 4 つの脳の部位をカバーしている BCI は世の中に多くあるが、その中でも日常で装着しても違和感のないくらい、シンプルなデザインである BCI はまだほとんど世に出ていない。
さらに、MacBookAir 並みの処理能力を兼ね備えていることも、強みの一つだと、Alex は述べる。
「iPhone が出た際、様々なことが可能となりました。 iPhone は単なる携帯電話ではなく、そこには様々なアプリケーションを備えたオペレーティングシステムが入っています。 私たちは、CROWN でそれを実現しました。CROWN には、CPU やメモリが搭載され、機械学習などの複雑な処理を行うのに十分な処理能力を持っています。なので、デバイス上でアプリを実行することも可能です。」
Bluetooth が埋め込まれたデバイスから脳波データを取得し、専用のスマホアプリ上で機械学習などの処理を行う、という今までのソリューションとは打って変わって、CROWN は専用のスマホアプリを必要とせずデバイス内で全ての動作や処理を行える可能性を持つ。
デバイスインターフェイス設計の道のり
十分すぎる機能性に加え、日常で誰もが使える程のシンプルさを兼ね備える CROWN であるが、そのインターフェイスの設計には多くの労力と思考がかかっている。
「インターフェイスの開発を進める中で、私は当初、形状の変革は多くの人にとってネックになりうると考えていました。 しかし、何十年も前に発明されたヘッドフォンがどのように登場したかを振り返ってみると、当時ヘッドフォンは非常に重く、大きかった一方、ヘッドフォンはゲーマーに他にはない価値を与えていました。 その結果、ヘッドフォンはどんどん小さく、軽くなっていったのです。 ... では、大きさや見た目の印象は、本当に重要なのでしょうか? ある程度は重要だと思います。しかし、形状限らず普通に装着できるものが提供され、それが私たちに何らかの利点をもたらすのであれば、人々はそれで何ができるかに注目すると私は思います。 ... なので、スリムな形状に MacBook Air と同等の性能を持つテクノロジーを収めるのが、私たちのインターフェイスのデザイン設計の始まりでした。」
と Alex は語る。
今後のインターフェイスの設計に関しては、ユーザーのニーズに焦点を当てることを優先し、それからデバイスを小さくする方法を探っていくと、Alex は言う。
「近い将来、目に見えないほどの超小型のデバイスが登場するでしょう。 そこで私たちは、他では手に入らない価値を、今の人々にどれだけ提供できるかということに、より焦点を当てています。 そして、それから、デバイスを可能な限り小さくするための設計や製造プロセスを探っていくつもりです。」
技術ファーストではなく、課題ファースト
Neurosity は、脳波デバイス CROWN とその専用アプリに加え、CROWN と連携して独自のアプリを作れる開発者用 SDKの提供も行う。
既に数多くの開発者が SDK と CROWN を用いて独自のアプリを開発しているが、「多くの人が SDK を用いて独自のアプリを開発し試していく上で、人々が毎日使いたいと思うユースケースが見つかってくる」と Alex は語る。
では、どのように、キラーアプリケーションを見つけてくべきなのか?
1 アプリ開発者でもある Alex は、
「心を読み取ることで何ができるかという当たり前のことを考えるのではなく、固定概念にとらわれないことが重要です。 ですが、それだけでなく、例えば多くの人が燃え尽き症候群になってしまうなど、 今世界で何が起こっているのか、どんな課題があるのか、を考えることも重要 です。」
と答える。
一つのことから違うことへの気持ちの切り替えがうまくできないという課題を持つ人は多い。
そのような人たちをフロー状態へ誘導する Neurosity Shift app は、あくまで社会が抱える複数の課題の中での初めの取り組みに過ぎない、と Alex はいう。
BCI の発展の鍵は、研究を現実の世界にどう落とし込むか。
現在、世界中において Neurotech 分野の数多くの研究が行われ、Neurosity 含むいくつものスタートアップが登場してきているが、
今後、脳とコンピュータを繋ぐ BCI はどのように発展していくのだろうか?
Alex は、優れた研究だけでなく、それらの研究を我々の生活に落とし込むことが至って重要であると答える。
「私自身、例えば、てんかんの発作を発生する 1 時間前までに予測できる研究など、新しい研究にとても興奮しています。 しかし、問題はそれらの研究をどうやって現実の世界に応用できるかです。
というのも、私たちが独自のデバイスの開発をする前に、市場に出回っていたすべてのデバイスを試しに使ってみましたが、どれもユーザーにとって使いやすいものではありませんでした。 帽子をかぶる人には親しみやすい見た目でもありませんでしたし、生活の一部としてデバイスが溶けこんでないとお金を払いたいと思いません。 なので、私たちの場合、研究用にデザインされていないブレイン・コンピュータ・インターフェイスを作ることが初めのステップであり、それを成し遂げました。」
さいごに
今回は、デザイン並びに処理能力に優れた脳波デバイス CROWN を提供する Neurosity の Alex にインタビューをさせていただいた。
CROWN のように、ウェアラブル性と自立型デバイスとしての機能性を兼ね備えた脳波デバイスが、今後毎日気軽に使える"モバイル端末"として我々の生活に組み込まれる日は近いのかもしれない。