脳波を読み取る技術が発見されて以来およそ 100 年の時が過ぎた今、Neurotechnology 業界は再度熱を迎えている。その背景には、脳科学の発展に加え、優れた機械学習技術やハードウェア技術を持つスタートアップの出現がある。
この記事では、その中でも我々の生活を Neurotechnology で革新してくれるであろう、5 つの勢いあるスタートアップを厳選して紹介する。
本題に入る前に、彼らが取り組む BCI (Brain-Computer Interface) にはどんなものがあるのかを説明していく。
BCI の分類
BCI とは、人間の脳とコンピュータをつなげるインターフェイスのことをいい、以下のように分類できる。
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Invasive BCI (侵襲型 BCI)
大脳皮質に直接電極を埋め込み、単一ニューロンの活動を測定
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Semi-Invasive BCI (半侵襲型 BCI)
頭の表面のみに電極を埋め込み(ECoG)、大脳皮質から発生する電気活動を測定
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Non-Invasive BCI (非侵襲型 BCI)
センサーを頭皮に設置し、脳から発生する電位(EEG)や磁場(MEG)を測定
Non-Invasive | Semi-Invasive | Invasive | |
---|---|---|---|
手術 | 不要 | 必要 (頭皮のみ) | 必要 |
信号の正確度 | 低い | 普通 | 高い |
空間分解能 | 低い | 高い | 高い |
ノイズ | 大きい | 小さい | 小さい |
*空間分解能: どれだけ小さいものまで区別して見えるか。
注目すべきスタートアップ 5 選
1. Neuralink
Elon Musk 氏が率いる Neuralink は、脳科学・生化学・ロボット工学などの領域の専門家たちとともに、2017 年に創業された。
数年間ステルスモードでの活動であったが、2019 年 7 月に発表した、髪の毛よりも細い侵襲型 BCI "threads"でその存在感を示した。
大量の脳データを取得できる threads であったが、現在は、"Link"というコインほどの大きさのデバイスへと発展を遂げ、8 倍も多くデータを取得できるようになり、バッテリーも 1 日持つほどに伸びた。
ここで注目すべきなのは、Link を通して可能となるコミュニケーション体験である。
Link を装着すれば、「念じる」だけでモバイル端末のカーソルを操作できたり、テキストの入力をしたりできる。
デモ GIF: 念じるだけでカーソルを動かせる iOS アプリ
どこへ行ってもコンピュータやモバイル端末を操作できる、初めてのニューラルインプラントを提供していくと Neuralink は述べる。
また、医学分野限らず健常者に対してもそのユーザー体験を提供すると述べており、今後の我々の生活に大きく変化をもたらすプロダクトとなるかもしれない。
Neuralink is currently focused on making medical devices. ~ Neuralink's long-term vision is to create BMIs that are sufficiently safe and powerful that healthy individuals would want to have them.
記事:
2. NextMind
NextMind は、複数の特許を持つ認知脳科学の教授 Sid Kouider によって、フランス・パリをベースに 2017 年に創業されたスタートアップである。
NextMind は、ゲームや TV のカーソル操作ができる非侵襲型 BCI と開発者用 Kit を提供しており、その革新性は、2020 年の CES の Best of Innovation 賞を取るほどのものだ。
注目すべきなのは、そのデバイスのシンプルさと、驚くべきデータサイエンス技術である。
NextMind が提供するデバイスは、視覚情報と紐づく視覚野の脳波を読み取ることで、念じるだけで、テレビやコンピュータの画面上のカーソルを動かしたり、VR ゲームの敵を倒したりするなどの行為を可能とする。
デモ動画: 念じるだけで敵を倒す VR ゲーム
これを実現するには精度の高い機械学習/AI 技術が必要であり、非侵襲型 BCI 業界ではトップを駆け抜けているといっても過言ではない。
また、たった$399 で購入できるデバイスは、VR デバイスなどと一緒に装着でき、日常で装着しても違和感がない。付属する開発者用 Kit (Unity サポート) を使えば、自前の VR アプリケーションなどと簡単に統合することができ、「念じたら〇〇」という脳コマンドの操作を誰でも付け加えることができるのも、今後この業界を牽引していく企業になり得る一つの要素であろう。
記事:
3. Neurable
Neurable は、2015 年にミシガン大学の研究室からスピンオフした、Boston ベースのスタートアップである。
Neurable が提供する非侵襲型 BCI は、一見ただのヘッドフォンに見えるが、耳との接触部には 16 チャンネルのセンサーがついている。
注目すべきなのは、そのデバイスの実用性と使い方である。
耳にあるセンサーは、ユーザーの集中度を検知し、それに応じてノイズキャンセルや通知のオン/オフを自動で行う。それだけでなく、音楽をスキップしたり電話に出たりするなどのアクションを、声を発さずに行うこともできる。
毎日簡単に使い続けていられるデバイスをコンセプトに、Hands-free そして Voice-free なシームレスなコミュニケーションを可能にする世界を Neurable は目指している。
記事:
4. CTRL-labs
CTRL-labs は、2015 年に New York で創業されたスタートアップであり、2019 年 Facebook(Facebook Reality Labs)によって買収された。
CTRL-labs は、筋肉の電気活動(筋電位 = EMG)を読み取る、リストバンド型ニューラルデバイスを提供する。
手首につけるこのデバイスは、手や指を動かそうとする時に発生する筋肉の微弱な電場の変化を感知することができ、手を動かせば、その動きを画面上などで正確に再現することができる。
ここで注目すべきなのは、この技術と XR の融合性である。
このデバイスをつけ、AR や VR 上で表示されているコンテンツに対して「空中で腕を動かす」「空中でスワイプする」「空中でタイピングをする」などのアクションをすれば、デバイスがその命令を筋電位から受け取り、AR/VR 上に動作を反映させることができる。
デモ動画: 空中でタイピング
今まで XR 上で操作するにあたって、リモコンや携帯などの何かしらの入力装置を必要としていたが、それが CTRL-labs によって不要となる。空中で行う手の動きで何もかも操作できてしまう未来が実現されるのは、想像するより近いうちなのかもしれない。
5. SPARK Neuro
SPARK Neuro は、2016 年に New York で創業されたスタートアップである。
上記 4 つのスタートアップとは違って、BCI デバイスの提供はせず、その優れたデータサイエンス技術とニューロサイエンスの知識を活用し、マーケティングやエンタメ・医療分野で脳波を利用したサービスを提供する。
注目すべきなのは、脳波を活用したマーケティング、通称ニューロマーケティング分野での活躍である。
ニューロマーケティングとは、クライアントが検討を考えている広告動画等を被験者に見てもらい、定性的なフィードバックに加え脳波という定量的データを使って、その広告に対する反応を分析するというものである。
デモ動画: ニューロマーケティング
これにより、コンバージョン率の高い広告を作ることが可能となり、ユーザーに対する広告のミスマッチを減らす。
SPARK Neuro は、大量な学習データと共に構築された独自の AI モデルを持ち、GM や Netflix など多くの企業に対してそのマーケティング手法を提供する。
記事: