EN/
JP
NeurotechJP Header brain wave
NeurotechJP banner 非侵襲型BCI スタートアップ5選
コラム
2021/9/5
非侵襲型BCI スタートアップ5選

 

Elon Musk 率いるNeuralinkが、脳とコンピュータをつなげる BCI(Brain Computer Interface)の領域で世の中の注目を浴びている。彼らが提供する BCI は、脳にインプラントを埋め込むことによって正確で情報量の多い脳のデータをとることが可能である。

 

それとは一方、手術を必要とせず頭にヘッドセットを載せることで脳波を読み取る非侵襲型の BCI というものがある。非侵襲型 BCI を扱うスタートアップの中でも、他のテクノロジーを組み合わせたり、様々なユースケース・利用目的に対して社会実装することで、成長を遂げるスタートアップが多く存在する。今回は、今勢いに乗る非侵襲型 BCI のスタートアップを 5 選厳選して紹介する。

 

1. Cognixion

Cognixionは、BCI と AR を組み合わせた、世界初のウェアラブル音声生成デバイスを提供するスタートアップだ。

Cognixion デバイス 画像: Cognixion デバイス

同社が提供するデバイス"Cognixion One"は、言語障害など喋ることが不自由になってしまった人向けに提供されており、AR デバイス画面上に投影されたボタンを念じて操ることで、思いのままに入力した文字を音声アシスタントが読み上げてくれるという仕組みである。

Cognixion デモ 動画: Cognixion デモ

その特徴は、遅延のないコミュニケーションと、思考を読み取る精度、そしてシンプルなデザインの 3 つがある。

1 つ目に、思考してから音声生成されるまでのスピードである。一般的に処理時間がある程度かかってしまう機械学習の処理を速くすることによって、Cognixion One では間が少ない速いコミュニケーションを実現している。

2 つ目に、思考を読み取る正確さである。ディープラーニング技術を使うことによって、思考を読み取る精度を 95 ~ 100%にすることができている。

3 つ目に、デバイスの操作性である。多くのデザイナーによって磨かれたシンプルでモダンなデザインは、ユーザーにスムースなコミュニケーションをもたらしている。

Cognixion One 以外にも、目や顔の表情を使って会話をサポートする"Sparkprose"を提供するなど、コミュニケーションという課題に向けて多くのアプローチを提供する注目のスタートアップである。

 

業界人工知能、AR、神経科学
本社米国カリフォルニア州サンタバーバラ
設立日2014 年
従業員数11-50
資金調達状況シード
合計調達額$2.8M
投資家数1
推定収益$1M 以下

 

参考: Crunchbase Cognixion

 

2. Kernel

Kernelは、Elon Musk 率いるNeuralinkに引けを取らないほど、大型の資金と優秀な人材・技術を兼ね備えるスタートアップである。創業者のBryan Johnsonは連続起業家として知られており、Braintreeを創業し PayPal に 800 億円で売却、その後OS Fundというファンドを立ち上げ、2016 年に自己資本と共に同社を創業した。

Kernel デバイス 画像: Kernel デバイス

同社は、血中酸素量から脳の活性度を測るfNIRSを使ったヘルメット型デバイスFlowや、脳の磁場変化をとらえるMEGを用いたデバイスFluxを提供する。

これまで MEG や fNIRS を使ったデバイスが世の中に登場してきているが、収集できるデータには制限があったり、施設にしか設置できないほどサイズが大きいなど多くの欠点が生じていた。しかしながら、同社では、優れた独自の技術を駆使して、ハイクオリティなデータが家庭でも収集可能となった。これまで取るのが難しかった大量なリッチなデータセットは、この業界を大きく前進してくれるだろう。

 

業界情報システム ライフサイエンス、神経科学
本社米国カリフォルニア州ロサンゼルス
設立日2016 年
従業員数51-100
資金調達状況シリーズ C
合計調達額$107M
投資家数6

 

参考:Crunchbase Kernel

 

3. Muse by Interaxon

Interaxonは、BCI を用いてマインドフルネス瞑想や睡眠の質の向上を手助けするスタートアップだ。

同社が提供する脳波デバイスMuseは、精神活動、心拍数、呼吸、体の動きなどのフィードバックをリアルタイムで取得することができる。

Muse デモ 動画: Muse 紹介

ユーザーは、デバイスを装着し専用のアプリを入れることで、毎日の生体データに加え、瞑想や睡眠の質を確認することができる。

特徴は何といってもその価格だ。同社はMuse 2Muse S、二つのタイプのデバイスを提供するが、どちらも$200 ~ $300 で買うことができる。その買い求めやすさから、ユーザー数は年々伸びており、アプリの月間ダウンロード数は8000 弱をマークする。

その用途はマインドフルネスに限らない。同社は開発者用に自分の脳波データをリアルタイムで取れる仕組みも提供しており、その価格と開発サポートの観点から多くのリサーチャーにも使われる。Muse researchというコミュニティがあるほど、Muse を使って研究を行う大学関係者は多い。

 

業界一般電子機器、フィットネス
本社カナダオンタリオ州トロント
設立日2007 年
従業員数11-50
資金調達状況シリーズ B
合計調達額$30.4M
投資家数14

 

参考: Crunchbase Interaxon

 

4. Emotiv

Emotivは、研究や開発用に数多くの脳波デバイスやアプリケーションを提供するスタートアップだ。

Emotiv デバイス 画像: Emotiv デバイス

注目すべきポイントは、データの質提供するプラットフォームの充実さだ。14 個の電極を兼ね備えるデバイスEPOC Xは、しなやかで回転性のあるフレームを持つことであらゆる頭の形にフィットするよう設計されている。それにより、前頭葉・後頭葉・側頭葉・頭頂葉全てのデータを正確にとることができ、加えて$849 という比較的安価に買えることから、カーソルを動かすなど複雑な処理を扱う研究者に多く使われる。

デバイスを買えば初心者でも BCI アプリケーションを作ることができる。リアルタイムで脳波の生データを取得できるプラットフォームEmotiv Proとは別に、無料のプラットフォームEmotiv BCIを使えば、既に用意されたアルゴリズムを使って、念じてドローンを動かすなどの BCI アプリケーションをボタン一つで作ることができる。

 

業界ヘルスケア、エンタープライズソフトウェア
本社米国カリフォルニア州サンフランシスコ
設立日2011 年
従業員数51-100
資金調達状況シード
合計調達額$120K
投資家数$1-10M

 

参考: Crunchbase Emotiv

 

5. Bitbrain

Bitbrainは、BCI の共同開発で活躍するスペイン発のスタートアップだ。同社は、脳波デバイスやアイトラッキングなどのデバイスやソフトウェアを多く提供する傍ら、企業との共同開発やコンサルティングでも活躍する。

Bitbrain デバイス 画像: Bitbrain デバイス

2018 年のCESで発表された、同社と日産自動車との共同開発は自動車業界に革命を起こす可能性があるものだった。一般的に、人間は何か行動を行おうとすると実際の行動の 1~2 秒前に特定の脳波反応が発生することが知られている。この共同開発では、ドライバーに BCI をつけ、ある行動前に発生する脳波反応を検知することで、その実際の行動を予測し、より快適で安全な運転をシステムが提案することができると発表した。この技術を使えば、不意な交通事故を事前に予測し、防ぐことができるかもしれない

 

業界バイオテクノロジー、消費者調査
本社スペインアラゴン州サラゴサ市
設立日2010 年
従業員数11-50
資金調達状況プライベート
合計調達額$1.9M

 

参考: Crunchbase Bitbrain

 

さいごに

今回は、非侵襲型 BCI の技術を応用したニューロテックスタートアップ 5 つを紹介した。

それぞれは、様々な形・技術を用いた BCI を提供するものの、独自の特徴や実用性を見出すことで、成長を遂げている。それと同時に、ニューロテックという一見すると SF のような技術を一般的に感じる人の数は日に日に増えている。

今後、さらに多くの非侵襲型 BCI スタートアップが登場すると予測できるが、今回紹介したような、市場を既に開拓しているパイオニアスタートアップのおかげで、参入の機会は多くあるのかもしれない。

ライター

Hayato Waki