はじめに
Neuropharmacology は神経薬理学を応用したテクノロジーのことを指す。
その応用範囲は医療目的で診断された患者を治療するために処方する薬から、最新の「スマート・ドラッグ」まで含まれる。
Neurotech を代表する 10 の技術 ~ 前半 ~ でも紹介したように、神経薬理学の分野は、大きく分子神経薬理学と行動神経薬理学の二つに分類される。新薬の開発には莫大な時間とお金がかかるが、それにも関わらず投資されるのはその恩恵も同様に大きいからだ。
Neurotech Analyticsのレポートによると、Neurotech 市場の大半を占めるのが Neuropharmacology のテクノロジーを応用した企業群である。今回はその中でも規模が大きくなっている企業や、ユニークなアプローチを取る企業を 5 つピックアップして紹介していきたいと思う。
1. Sage Therapeutics
Sage Therapeuticsは、脳の健康障害を持つ人々の生活を変えうる新薬を開発している企業だ。主力製品は、産後うつ病の治療薬として米国の FDA に唯一認証されているZULRESSOだ。
同社は、神経伝達物質システムであるGABAとNMDA 受容体の 2 つの調節に研究開発の取り組みを集中させている。これら 2 つの神経伝達システムは中枢神経機能の調節に大きく関係していると言われており、うつ病の他にも、認知症やてんかん、本態性振戦、パーキンソン病といったさまざまな神経障害の治療を独自の開発アプローチで取り組む。
業界 | バイオテクノロジー、ヘルスケア |
本社 | 米国マサチューセッツ州、ケンブリッジ |
設立日 | 2010 年 |
従業員数 | 501-1000 |
資金調達状況 | IPO |
合計調達額 | $1.1B |
投資家数 | 6 |
推定収益 | $50M - $100M |
2. AZTherapies
AZTherapiesは、高齢者の生活の質を向上させることを目的とした新しい治療法を開発する、高度な臨床段階のバイオ医薬品企業だ。
創業者であるデイビッド・R・エルマレ博士は、科学者であり発明家、そして連続起業家でもあり、医薬品や造形剤に関する130 以上の出版物や120 を超える特許を保有し、10 億ドル以上を示す 6 つの治療法を生み出してきた。現在同社のパイプラインでは、初期アルツハイマー病の治療薬や、ALS、虚血性脳卒中の治療薬を開発している。これらの神経変性疾患は現時点で効果的な治療法の選択肢が開発されているとは言えず、同社に世界中から期待が集まっている。
業界 | バイオテクノロジー、ヘルスケア |
本社 | 米国マサチューセッツ州, ボストン |
設立日 | 2011 年 |
従業員数 | 11-50 |
資金調達状況 | シリーズ C |
合計調達額 | $99.8M |
投資家数 | 5 |
3. Intra-Cellular Therapies
Intra-Cellular Therapiesは、ノーベル賞を受賞したポール・グリーンガード博士の研究に基づいて設立されたバイオ医薬品企業だ。同社は、精神疾患や神経疾患への治療が体内の細胞の内部作用にどのように影響するかを明らかにした。この細胞内へのアプローチを活用して、複雑な精神疾患や神経疾患を抱える人々に変革をもたらす治療法を提供している。
動画: Intra-Cellular Therapies 紹介
テクノロジー | 低分子化合物 |
業界 | ファーマテック |
本社 | 米国ニューヨーク州、ニューヨーク |
設立日 | 2002 年 |
従業員数 | 51-100 |
資金調達状況 | IPO |
合計調達額 | $225.3M |
投資家数 | 2 |
推定収益 | $1M - $10M |
4. BlackThorn Therapeutics
BlackThorn Therapeuticsは、神経行動障害に焦点をあてた独自の治療法を開発する計算科学会社だ。同社は、新規治療薬の強力なパイプラインを推進するために、計算精神医学のプラットフォームを開発してきたパイオニアだ。データ駆動型アプローチを活用して患者選択の問題を解決し、患者の転帰を改善する治療法を生み出す。
同社の創薬および開発のアプローチは、新しいツールやデジタルマーカーを用いて、神経疾患を引き起こす調節不全な脳回路を特定するアプローチだ。この新しい方法で神経行動障害を捉えることにより、ターゲットを絞った治療法をより成功させることが実現されている。
テクノロジー | 遺伝子検査・分子診断 |
業界 | エンド・ツー・エンドの医薬品開発 |
本社 | 米国カリフォルニア州サンフランシスコ |
設立日 | 2015 年 |
従業員数 | 11-50 |
資金調達状況 | シリーズ B |
合計調達額 | $138 M |
投資家数 | 14 |
推定収益 | $1M - $10M |
5. Biohaven Pharmaceutical
Biohaven Pharmaceuticalは、産業界および学術界で実績のあるリーダーシップを持つ臨床段階のバイオ医薬品企業だ。同社は、希少疾患を含む神経疾患および神経精神疾患を対象とした革新的な製品を提供する。
その背景には、一流のバイオ医薬品投資家のサポートに加えて、起業家精神にあふれた組織構造と医薬品開発における印象的な幅広い経験がある。また、同社は、アストラゼネカ AB、イェール大学、マサチューセッツ総合病院などの企業や機関と連携し、ライセンス供与された知的財産を内部開発や研究と組み合わる戦略を取る。
その勢いは留まることなく、2017 年の IPO 以来、複数の治療プラットフォームの開発が急速に進んでおり、複数の臨床試験が進行中である。Nurtec™ODTは、2020 年 2 月に FDA の承認を受け、片頭痛の急性治療のための唯一の口腔内崩壊CGRP拮抗薬として急速に注目を集めている。
業界 | バイオテクノロジー, ヘルスケア |
本社 | 米国コネチカット州, ニューヘイブン市 |
設立日 | 2013 年 |
従業員数 | 501-1000 |
資金調達状況 | IPO |
合計調達額 | $443.7M |
投資家数 | 12 |
買収数 | 1 |
推定収益 | $10M - $50M |
さいごに
今回は、Neuropharmacology の技術を活用する企業を紹介した。
新薬を開発する企業は沢山あるものの、それぞれが異なる疾患を持つ患者を対象に新薬を提供していたり、データ解析技術を使って新薬を開発する BlackThorn Therapeutics のように、テクノロジーと掛け合わせたユニークな企業も多くある。
薬品では治療が難しいと言われていた疾患も、今後、彼らの研究や努力によって薬品での治療が可能となるかもしれない。