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コラム
2021/7/17
Neuromodulation スタートアップ5選

 

街中を歩いている時、仕事をしている時、常日頃から我々人間の脳は"活動"をしている。脳の神経細胞は電気信号を発生し活性化しており、数え切れないほどの神経細胞が複雑に絡み合い伝播しあうことで我々は様々な活動を行なっている。

逆に、神経細胞の電気信号を故意に発生させ、我々の"活動"の幅を広げることはできないのだろうか?

 

以前紹介したNeurotech を代表する 10 の技術 ~ 前半 ~の一つに、ニューロモデュレーション(Neuromodulation)というものがある。

ニューロモデュレーションは、電気刺激などの安全な刺激を体内の特定の神経細胞に与えることで、神経活動を変化させる技術である。刺激によって脳の病気を治したり、エネルギーを増やしたりすることができるのだ。

今回は、ニューロモデュレーションという技術を使って、我々の生活に大きく変化をもたらしているスタートアップを 5 つに絞って紹介していく。

 

はじめに

ニューロモデュレーションは刺激を使って我々の神経活動を変化させる技術であるが、その技術を使って活躍するスタートアップは世界中に 60 以上あり、そのうちの幾つかは既に IPO をしている。2022 年には市場規模は 130 億ドルになるとも言われており、Neurotech の中でも経済的なインパクトの大きい技術の1つになると予測される。

 

Neuromodulation types ニューロモデュレーション 分類

 

ニューロモデュレーションは大きく分けて上図のように 5 つの技術に分類され、体内に電極を埋め込んで行う侵襲的な技術だけでなく、体外から刺激する非侵襲的な技術もある。

その用途は、てんかん症などの脳の病気を治す医療目的限らず、睡眠の質向上やエネルギーチャージなど一般消費者向けに提供されるユースケースも多くある。

 

スタートアップ 5 選

1. Inspire Medical Systems

Inspire Medical Systemsは、FDA(米国食品医薬品局)に認可された唯一の無呼吸睡眠治療法 Inspireを提供する。ユーザーは、体内に小さなデバイス Inspire を埋め込み、睡眠時リモコンで電源をオンにすることによって、Inspire が気道を開き、正常な呼吸ができるようになる。

Inspire 動画: Inspire 紹介

今まで無呼吸睡眠を治療するのに専用のホースやマスクなどの機械を使うのが主流だったが、機械音がうるさかったり、持ち運びに不便という欠点があった。しかし、Inspire を使えば、ボタン一つで音を発することなく使用することができる。加えて、使用するのは手のひらサイズのリモコンと体内にあるデバイスだけなので、持ち運びも楽にできる。

その結果、睡眠中の無呼吸の回数を 79%減少させることに成功し、Inspire のおかげでパートナーのいびきがうるさいと感じていた人のうち 90%がそのうるささに悩まなくなったと報告した。

業界ヘルスケア
本社米国ミネソタ州
設立日2007 年
従業員数101 - 250
資金調達状況IPO
合計調達額$186M
投資家数10
推定収益$10M - $50M

 

2. Axonics Modulation Technologies

Axonics Modulation Technologies は、膀胱や腸を正常にコントロールさせる治療法、仙骨神経刺激法を提供する。小型の充電式神経刺激装置を腰の位置に埋め込み、骨盤部を支配する仙骨神経にリモコンを通じて電気刺激を与えることによって、突然の尿意を引き起こす過活動膀胱や便意を引き起こす腸閉塞などの、膀胱や腸周りの症状を改善することができる。

Axonics How it works 画像: Axonics 仕組み

この刺激装置は少なくとも 15 年間交換要らずで使用でき、専用の外付け充電器を使うことですぐに装置を充電することができる。

業界ヘルスケア
本社米国カリフォルニア州アーバイン
設立日2012 年
従業員数101 - 250
資金調達状況IPO
合計調達額$604.4M
投資家数8
推定収益$100M - $500M

 

3. Thync

Thyncは、電気刺激を通して誰もが脳機能を向上させることができる非侵襲型のデバイスを提供している。現在彼らが提供するウェアラブルパッチFeelzingは、神経へ電気刺激を行い、エネルギー、明晰性、注意力を数時間の間高めることができる。使い方は至って簡単で、耳の後ろにパッチを貼り付け 7 分間の刺激を行うだけで効果を実感することができ、何度も使用することができる。

FeelZing 画像: FeelZing プロダクト

FeelZing video 動画: FeelZing 紹介

Thync は 2010 年から一般向けの電気刺激デバイスの研究を行っており、現在、ユーザーの 50%が注意力の改善、37%がモチベーションの向上を感じていると報告している。

業界ニューロテック
本社米国カリフォルニア州サンフランシスコ
設立日2011 年
従業員数1 - 10
資金調達状況シリーズ B
合計調達額$13M
投資家数3

 

4. Electrocore

Electrocoreは、体の部位と脳をつなげる迷走神経に刺激を送り頭痛等の症状を治療する、非侵襲型のデバイスgammaCoreを提供する。gammaCore を使うことによって、群発性頭痛の予防や痛みの緩和に加え、片頭痛の治療および予防の効果を見込めることができる。

gammaCore 画像: gammaCore プロダクト

業界ヘルスケア
本社米国ニュージャージー州
設立日2005 年
従業員数11 - 50
資金調達状況IPO
合計調達額$145.5M
投資家数6

 

5. Modius Health

Modius Healthは、非侵襲型デバイスを用いた頭部への電気刺激を使って健康やウェルネスを改善するプロダクトを、様々な用途に対応して提供する。それぞれの用途にあった刺激を送ることで、睡眠不足が解消されたり(Modius Sleep)、体重を減らすことができたり(Modius Slim)、ストレスを減らしたり(Modius Stress) することができる。

Modius 画像: Modius プロダクト

創業者の Jason MacKeown は、医療関係の仕事に従事していた経験を持つ。その脳科学のバックグラウンドを生かし設計されたプロダクトは、現在 80 カ国以上のユーザーに使われている。

業界ニューロテック
本社米国カリフォルニア州サンディエゴ
設立日2013 年
従業員数11 - 50
資金調達状況株式投資型クラウドファンディング
合計調達額$1.6M
投資家数1

 

さいごに

今回は、近年市場規模が右肩傾向であるニューロモデュレーション(Neuromodulation)市場で活躍するスタートアップを紹介した。医療機器としてこの技術を扱う企業が多い一方、Thync や Modius Health のように病気を持たない一般人向けにプロダクトを提供するスタートアップも勢いを伸ばしつつある。

科学の発展が著しい現在、脳科学の新発見をベースに革新的なプロダクトを我々に提供する企業は、これからも更に増えていくことだろう。

ライター

Shoka Kadoi