これまで NeurotechJP ではインタビューを通じて様々なプロダクトやコンテンツを紹介してきた。Morgan Hough の記事でも紹介したようにソフトウェア同様にオープンネスなシェアがニューロテックの普及に重要だ。BCI に熱狂する人たちは彼らの他にも多くいる。そこで今回は、ニューロテックの中でも特に注目されている BCI を中心とした、世界中にある初学者向けの学習コンテンツをまとめた。
1. BCI Guys
BCI の入門書と呼べるようなコンテンツを提供しているのが、BCI Guysだ。ニューロサイエンスの基礎とニューロテックの概念を Youtube の動画でわかりやすく説明している。BCI Guys のコース一覧を見ていただけるとわかるように、Lesson1 から Lesson10 までにわたって、Neurotechnology の導入から歴史、神経解剖学の基礎、脳機能と神経科学、ニューロテクノロジーのタイプ、ニューロモデュレーションと脳機能強化、BCI とメソッド、神経倫理と文化への配慮、業界関係者、と幅広く概観できるようになっている。
NeurotechJP では、BCI Guys の代表であるHarrison Canning にインタビューさせていただいたが、今後はスポンサーと協力して実装の部分の動画も出していく予定とのことだ。
2. NeurotechX
NeurotechXは、ニューロテック愛好家のための国際コミュニティだ。① コミュニティ、② エデュケーション、③ プロフェッショナルデベロップメントの 3 つを柱として活動している。 NeurotechX のコンテンツの中でも特筆すべきは、実装に特化しているNeurotechEDUだ。EEG に関連する実装に特化した教育コンテンツと神経科学の導入のコンテンツが提供されている。
NeurotechEDU コンテンツ一覧
また、NeurotechX の Githubの中でもEEG notebookのリソースが非常に充実しており、P300, SSVEP などといった EEG に関連するほぼ全ての実験のサンプルコードが載っている。また実装のツールやライブラリ、プラットフォーム、データセットがまとまっているawesome-bciも見逃せない。
3. Neurotech Berkeley
Neurotech Berkeleyは、以前注目すべき BCI の大学研究室/施設 5選で紹介した Carmena Lab がある University of California Berkeley に在籍するメンバーを中心として運営されている団体だ。EEG、TMS、fMRI に焦点をあてて、ニューロテックに関連するソフトウェア、デバイス、コンサルティング、アウトリーチ、パブリケーション、エデュケーションの全部で6 つの部門に分けられている。
Neurotech Berkeley のコンテンツは基本的に Github 上にまとめられており、中でもNeurotech-Courseには、スライドとビデオのリンクだけでなく、信号分析などのチュートリアル Jupyter notebook の他にも Python のデータ分析やfMRI の Colaboratoryまでも公開されており、世界トップレベルの知のノウハウにアクセスできるようになっている。TMS や fMRI を使って研究を進めようとしている人へのコンテンツが揃っているのが特徴だ。
4. Spring school by G.tec
g.tec medical engineeringは 1999 年より研究や臨床向けの侵襲、非侵襲両方の記録のための高性能な BCI や、ニューロテクノロジーを開発・製造している企業である。そんな g.tec によって提供されているのがSPRING SCHOOLだ。10 日間のオンライン教育プログラムとなっており、毎日 5-6 時間にわたって g.tec の製品を使った解説をしてくれる。実のところ本来は 980 EURO(日本円だと約 12 万円強)するセミナーだが、コロナ禍の 2021 年は無料で提供された。既に Youtube でも公開されている。
Youtube: Spring School Day 1 by G.tec
その他にも、BR41N.IO(THE BRAIN-COMPUTER INTERFACE DESIGNERS HACKATHON の略)というハッカソンを 2017 年より開催している他、毎週月曜日にウェビナーも開催している。SPRING SCHOOL 2022も 4 月 30 日よりウィーン時間で開催する予定だ。
5. Neuromatch
Neuromatchは、アメリカの非営利団体が運営しているオンラインコミュニティだ。学習、メンターシップ、ネットワーキング、および専門能力開発のための、包括的かつグローバルな相互作用を促進することをミッションとしており、Neuromatch AcademyとNeuromatch Conferenceの 2 つの組織を運営している。
画像: Neuromatch ウェブサイト
Neuromatch Academyは計算論的神経科学を学べるNMA-CN:(Neuromatch Computational Neuroscience)とディープラーニングを学べるNMA-DL:(Neuromatch Deep Learning)とに分けられており、それぞれシラバスが Github 上に用意されている。これらのコンテンツは 15 日間の Summer School でカリキュラム化されており、世界中の人々と一緒に学ぶことができる。
Neuromatch Conferenceは計算論的神経科学コミュニティのためのカンファレンスであり、アジェンダを確認するとキーノート、パネルセッション、ショートトーク、フラッシュトークに分かれておりクラウドキャストのサービスから見ることができる。また、Discord サーバーも用意されておりトークごとに質問や議論をすることが可能になっている。
さいごに
今回紹介したコンテンツ以外にも、Python ライブラリMNEには脳波を分析するためのチュートリアルが充実していたり、 NeurotechX のスポンサーでもあるOpenBCIが提供している OpenBCI の使い方のチュートリアルも参考になる。この業界の発展はオープンネスな文化によってもたらされることに疑いはない。
しかしながら一方で、脳というとてもセンシティブな究極の個人情報となりうる情報をオープンなデータとして取り扱うためには、倫理的な点が課題にもなってくるだろう。Neurotech・BCI をこれから学習していく方々には、倫理、法、社会的課題であるELSI(Ethical, Legal and Social Issues)の重要性とうまくバランスを取りながら、今回紹介したコンテンツから学習を進めていただきたい。