ひとくちに Neurotech といっても、その具体的な技術は、偉大な先人たちによる様々な学問の歴史によって織り成された研究成果が幾重にも連なって、この現代に生まれたものだ。
Neurotech に触れたばかりの頃は、脳とコンピュータをつなげる Brain-Computer Interface(BCI)にばかり夢中になってしまい、SF の世界が実現する未来を想像したかもしれない。しかしこのシリーズでは BCI のみならず、より俯瞰的な視点で Neurotech 全体を見渡し、大きく 10 種類に分類される技術それぞれについて、代表的な企業を交えながら紹介していく。
今回はその中でも、前半の 5 つの技術についてみていこう。
1. Cognitive assessment & enhancing・認知機能の評価と向上
認知機能の評価と向上とは、脳や認知機能の発達、社会的認知の向上、職業能力の向上を目的とした活動だ。
この 30 年の間に、神経科学の驚くべき発見が私たちの認知機能の未来を切り拓いて来た。認知機能は通常年齢とともに低下していくが、新しい神経技術によって脳の健康とパフォーマンスを向上させることができるのだ。
瞑想、ビデオゲーム、スマートドラッグ、栄養補助食品、脳への刺激、運動、音楽、認知トレーニングなどの様々な活動により認知機能が評価・強化できることが、研究によって明らかになってきている。
認知機能を強化すると、脳の効率が上がり、複雑な問題を解決したり、新しい視点を理解したりすることができるようになる。
代表的な企業としては、Virtuleap, Neurotrack, Mindstrong Health, などがある。
2. Neuropharmacology・神経薬理学
神経薬理学は、病気の人を治す治療と、気分をより良くすることの両方に関わる学問だ。それゆえに、病気の人を助けるために処方される薬から、最新の「スマート・ドラッグ」まで、そのすべての範囲がこれに当てはまる。
神経薬理学は大きく分子神経薬理学と行動神経薬理学に分類される。
分子神経薬理学は、薬物が細胞機能や神経機構にどのように影響を与えるかを研究し、有益な神経作用を持つ薬物の開発を目的としている一方、行動神経薬理学は、薬物が人間の行動にどのように影響を与えるかを研究する学問であり、薬物依存や中毒が人間の脳にどのような影響を与えるかについても研究されている。
製薬会社、大学、研究病院の研究者は、新しい神経治療薬の発見に年間 1,370 億円以上を費やしており、パイプラインは極めて非効率的で、現在のところ 薬を市場に出すまでに 12 年以上の年月と 15 億円の費用がかかっている。臨床試験を開始する前の研究開発の初期段階は、通常 3.5 年かかる。
代表的な企業としては、Sage Therapeutics, AZTherapies, BlackThornxなどがある。
3. Neuromodulation・ニューロモデュレーション
ニューロモデュレーションとは、"刺激による神経活動の変化"であり、電気刺激や化学物質などの刺激を体内の特定の神経部位に与えることで、神経活動を変化させる技術である。
その分野は多岐にわたり、様々な疾患の診断や治療、医療や神経科学の研究のためのツールなど、その用途は、神経刺激の種類によって異なる。また、薬剤を用いた薬理学的刺激もその範疇に含まれる。
それら刺激の種類は、次の表で説明するように、それぞれが異なる特性を持っている。
ニューロモデュレーション 刺激の種類
対象 | 内容 | |
---|---|---|
脳深部刺激 | パーキンソン病などの運動障害者 | 埋め込まれた電極を介して脳内の特定の場所に電気刺激を与える |
仙骨神経刺激法 | 薬物・理学療法に反応しない膀胱の症状を持つ人 | 尾骨の近くにある仙骨神経の機能を変化させる |
脊髄刺激法 | 慢性的な痛みを持つ人 | 痛みの原因と考えら得る特定の脊髄領域に電極を設置し電気刺激を与える |
迷走神経刺激 | うつ病、てんかん症を持つ人 | うつ病などに関係する迷走神経に電気刺激を与える |
経頭蓋磁気刺激法 | 頭痛などの神経症状がある人、うつ病などの精神症状がある人 | 装置の急激な磁場変化によって弱い電流を流し、脳のニューロンを興奮させる |
NeuroTech Reports 社の市場調査によると、世界のニューロモデュレーション市場は、2018 年の 84 億ドルから2022 年には 133 億ドルに成長すると予想されている。
代表的な企業としては、Thync, Axonic, ElectroCore などがある。
画像: Thync デバイス
4. Neuromonitoring / imaging・ニューロモニタリング/イメージング
ニューロモニタリング/イメージングとは脳や脊髄をスキャンする方法だ。その中でも代表的な技術として、以下がある。
ニューロモニタリング/イメージング 種類
ニューロイメージング
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MRI スキャン
MRI スキャンは磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging)の略で、磁場と電波を利用して脳と脳幹の詳細な画像を作成する検査方法だ。
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PET スキャン
PET スキャンは陽電子放出断層撮影法(Positron Emissioned Tomography)の略で、トレーサーと呼ばれる放射性物質を用いて断層撮影し、脳の病気や損傷を調べることができる。
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CT スキャン
CT スキャンは、コンピュータ断層撮影法(Computed Tomography)の略で、X 線検査の一種で、「スライス」と呼ばれる頭部の 3 次元画像を作成する。
ニューロモニタリング
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EEG (ElectroEncephaloGraphy)
脳波(EEG)は、脳のさまざまな皮質層で発生する電気的活動を測定することができる。EEG は、視覚や聴覚の刺激を受けた直後に起こる脳のプロセスを記録するために活用されるが、相互作用やモチベーションを反映する脳の状態をより長い時間にわたってモニターすることもできる。
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MEG (MagnetoEncephaloGraphy)
脳磁図(MEG)とは、脳内に自然に発生する電流によって生じる磁場を、非常に感度の高い磁力計を用いて記録することで、脳の活動をマッピングする機能的神経技術である。
EEG が神経の興奮によって生じる電気的活動を検出するのに対し,MEG は神経活動によって生じる磁場を捉える。MEG の測定は、通常、外部の磁場がデータ記録に干渉しないように、シールドされたチャンバー内で行われる。
最大の利点は、MEG が EEG と同様の高い時間分解能を兼ね備えている一方で、高い空間分解能をも持っていることである。
*時間分解能: どれだけ短い時間間隔で測定できるか。
*空間分解能: どれだけ小さいものまで区別して見えるか。
代表的な企業としては、InSightec, NeuroMetrix などがある。
5. NeuroFeedback・ニューロフィードバック
ニューロフィードバック 流れ
ニューロフィードバックは、脳波の活動をリアルタイムで可視化し、それを訓練することで、脳波を変化させ脳機能の自己調整を導く技術だ。
患者の脳波の活動に関する情報を示すことで、患者は脳波を変えることを学ぶことができる。ニューロフィードバックは、ADHD などさまざまな神経症状の治療に加え、集中力を向上させ仕事の生産性を上げる目的などでも用いられることがある。
Market watch 社によると、ニューロフィードバック市場は、2019 年で 4300 万ドル、2026 年には 6600 万ドルの規模になると予測される。
代表的な企業としては、Muse by InteraXon, Myndlift, BrainCo などがある。
画像: Muse デバイス
さいごに
今回は、Neurotech を代表する 10 の技術のうち、前半 5 つの技術を紹介した。
ここまで見て来たように、Neurotech は BCI の他にも薬学、工学など様々な学問の技術が応用されている巨大な市場だ。今回紹介した中でも特に市場が大きいニューロモデュレーションなど、その技術を応用したスタートアップはこの先もどんどん出てくることだろう。
次回は、後半 5 つの技術を紹介していく。
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